1.世界中から大喝采を浴びた名作舞台『ムサシ』

 蜷川幸雄さん後期の代表作との呼び声高い、舞台『ムサシ』(2009年初演)。劇作家・井上ひさしさんが書下ろし、蜷川さんと初タッグを組んだことで注目を集めました。命の尊さ、復讐の連鎖を断ち切る大切さを描いた普遍的なテーマと、ダイナミックな演出が好評を博し、ロンドン、ニューヨークから招待された公演では、辛口で知られる英米の劇評家や満員の客席から大喝采を浴びたのです。また、シンガポール、ソウル、上海など海外からの招聘が相次ぎ、世界6カ国10都市、計210ステージで約20万人を動員する名作舞台として広く知られています。

 

 初演から12年が経った2021年。蜷川さんの七回忌追悼記念公演として、再び『ムサシ』が見参します。主要キャストは初演当時から引き続き、主演の藤原竜也さん、鈴木杏さん、塚本幸男さん、吉田鋼太郎さん、白石加代子さん、そして再々演(2013年)から加わった溝端淳平さんも続投。そして今回初めて演出家に名を連ねているのが、キャストとしても登場する吉田鋼太郎さんです。

 

2.演出というよりも“舵取り”。好き勝手やる人たちなんで

――今回の再演で最も注目のポイントといえば、吉田さんが演出をされることですよね。

 演出といっても、蜷川さんがお作りになったものなので、それは完全に踏襲します。僕が何か新しいことをやるとか、新しい風を吹かせるとかっていうことはございません。ただ、何度も再演を重ねてきているものですから、どこかで慣れちゃっているところがあると思うんです。

 

 前回通り、あるいは前々回通りやっておけばまあ問題ないだろう、みたいな気持ちになってしまうと、芝居が死んでしまいますので。改めてわくわくしながら、新作をやる気持ちで稽古をしようねと、みんなが慣れないように監視することが今回の僕の役割だと思っています。演出というよりも“舵取り”といいますか。藤原竜也が暴走しないように止めないと(笑)。

 

――キャストのみなさんは、吉田さんが演出されることに期待を寄せていらっしゃるようですが。

 新しい演出をするわけではないので、そういう意味で期待をされても非常に困るわけで。蜷川さんの持っている魂だけは無くさないようにしようね、ということだけは伝えようと思っています。そこだけは言うことを聞いてくれれば……。なかなか聞かない人たちなんでね(笑)。船頭といえども結構大変だと思います。好き勝手なことやる人たちなんで、私も含めまして。

 

3.役者と演出家、二足の草鞋を履く難しさ

――かねてより、役者と演出家の両面で活躍されてきた吉田さんですが、切り替える“スイッチ”のようなものはあるのでしょうか?

吉田鋼太郎さん

吉田鋼太郎さん

 彩の国シェイクスピア・シリーズでも演出をしつつ役者としても出ていましたが、やっぱり切り替えるのは大変難しいです。演出席に座って、自分の代役を立てて演出するときは専念できるんですが、いざ自分が必要になって演技をし始めると、どうしても周りのことが気になるんですよね。どこか自分の役に集中できない自分がいる。本来ならば演出と役者は兼任しない方が良いのではないかと……。

 

 でもそこを乗り越えて、役者をやるときは役者に専念する・没入するという作業を、やがてできるようになりたい。ひとつこれは僕の課題だとは思っております。

 

4.初演から12年、年齢を重ねた役者たち

――2009年の初演から柳生宗矩(やぎゅうむねのり)役を続投し続けていますが、どのような思い入れがありますか?

 本当に大好きな役で、何回やっても飽きない役なんですね。『ムサシ』は井上先生が(初演当時の役者)みんなに当て書きをしてくれましたし、とっても大切な役なので、それがまた演じられるうれしさがあります。また、改めて発見できる部分がもしまだあれば、蜷川さんの演出から逸れないように新しい発見をして、それをもう一回自分のなかでも気持ちを新たにしてやってみたい。おそらく他のキャストもみんなそうだと思うんですね。

 

 あと、年齢がね。初演当時から12年も経っているので、みなさん年齢が上がったんですね。白石さんに至っては初演当時70代だったんですけど、もうすぐ80代ですから。80代で舞台に立っている人ってあんまりいません。出ずっぱりだし、体を張るシーンも多々あるし。白石さんがどんな芝居を見せてくれるんだろうかと、今大変興味が尽きないところですね。

 

5.今だから話せる藤原竜也さんと溝端淳平さんの珍事

――2021年6月28日に大千穐楽を迎えたばかりの、彩の国シェイクスピア・シリーズ『終わりよければすべてよし』。同舞台では、藤原竜也さん(『ムサシ』で宮本武蔵役)、溝端淳平さん(『ムサシ』で佐々木小次郎役)とも共演されていましたね。普段から親交が深いのでしょうか?

 ええ、仲良しですよ。

 

――藤原さんは初演当時から、溝端さんは再々演の2013年から『ムサシ』に出演されていますが、これまでの稽古でお二人の印象的なエピソードがあればぜひお聞かせください。

 淳平が途中参加といえば途中参加なんでね。彼の満足がいくような稽古時間が取れていないんです。もちろん、何ステージもやってきてはいるんですけれども、初参加(2013年)のとき淳平はたった2週間ぐらいの稽古で本番に入ったんです。彼のなかではまだやり切れていない、やり足りない部分がたくさんあるようで。それを今回僕はなんとかしたいなあと。

 

 そんな淳平の意気込みを藤原君は「お前にできるのはあの程度だろう」と言って淳平をいじめるんですね。すでに日常生活から小次郎を潰しにかかる武蔵(藤原竜也)っていう。そういう会話は多々ありましたね。

 

6.台本が上がってこないハラハラドキドキの初演稽古

――蜷川さん、井上さんがご存命中の稽古で、特に印象深いできごとはありますか?

 初演の稽古ですね。井上先生は筆が遅いことで有名だったので、それに違わずなかなか台本ができなくて。最終的に台本が上がったのが初日の3日くらい前だったんです。もうギリギリ! 井上先生の台本が1ページ、2ページとFAXで送られてくるんですよ。その度に稽古して、また次の日に井上先生の本を待つという。わくわくドキドキしながら毎日稽古していました。まさに宮本武蔵を巌流島で待っている佐々木小次郎の心境のようで。

 

 俳優はセリフを覚えないと芝居ができないので、やっぱり焦りますよね。しかも、最後にできあがったページというのが、びっくりしたことに白石加代子さんのセリフがほとんどだったんですよ。よりによって! 最高齢の白石さんのセリフを最後に持ってくる井上さんは鬼だと思いましたね。

 

 しかし芝居の構想上それはしょうがなくて。蜷川さんがそのときにおっしゃっていたんです。「全然慌てる必要はないからな。必ず僕がこの芝居は舞台の上にのせるから。俺を信じろ、お前ら」。だから何も心配することなく僕らは稽古できましたね。蜷川さんがそうおっしゃるんだったら、もう身を委ねるしかないなと。

 

 しかしまあ、やることがないもんで、台本がないから(笑)。鎌倉の禅寺に行って座禅を組んでみたり、井上先生のお宅に押しかけて「早く書いてください」って発破をかけに行ったり(笑)。スリリングでしたが、今となってはいい思い出がたくさんあります。

 

 そのときのヒリヒリ感といいますか、新しいものがどんどんできあがっていく高揚感といいますか。なにしろ井上先生と蜷川さんの初タッグだったので、すごいものができあがるぞと。いろんな気持ちを抱えて稽古していた頃のことを忘れちゃいけないなって今回改めて思うんですよね。

 

舞台「ムサシ」

【埼玉公演】2021/8/25(水)~8/29(日) 彩の国さいたま芸術劇場 大ホール
【東京公演】2021/9/2(木)~9/26(日) Bunkamuraシアターコクーン

URL:https://horipro-stage.jp/stage/musashi2021/

 

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