そもそも“オペラ”ってなんでしょう? こんな初歩的な疑問にも笑顔で応えてくれたのは、東急文化村のオペラ・プロデューサー 児玉晶子さん。『龍角散 Presents ベートーヴェン生誕250周年記念 パーヴォ・ヤルヴィ&N響 オペラ≪フィデリオ≫』のプロデュースも担当されています。
好きな食べものや惹かれる服装、心地いい空間など、年齢を重ねるごとに変わってきたものはありませんか? たくさんの経験を積んで、いろいろな人の感情の動きを知って……感動できる体験も増えてきたのではないでしょうか。そんな今だからこそ、今までとは違った世界に足を踏み入れてみませんか? 連載1回目の今回は、オペラの魅力に迫ります。
そもそも“オペラ”ってなんでしょう? こんな初歩的な疑問にも笑顔で応えてくれたのは、東急文化村のオペラ・プロデューサー 児玉晶子さん。『龍角散 Presents ベートーヴェン生誕250周年記念 パーヴォ・ヤルヴィ&N響 オペラ≪フィデリオ≫』のプロデュースも担当されています。
すべてが“生” オペラの魅力にふれる
――そもそも“オペラ”ってなんでしょう?
オペラは“生”の音を堪能できるのが大きなポイントです。オーケストラの奏でる音楽に、歌手の全身から響く歌声。この迫力を体感できるのはオペラならでは。だからこそ劇場で、“生”のオペラを体験して欲しいです。
――あんなに広い劇場に響くのが生の音だけって、確かにすごい。その迫力は体験してみたいですね。
なんだか難しそう? 意外ととっつきやすいのがオペラ
――オペラってなんだか難しいイメージがある人も多いと思うんです。原語上演というと、イタリア語だったりドイツ語だったりしますもんね。
オペラは物語のほとんどが音楽で進むので、言葉の壁は意外と気にならないものですよ。また、字幕が出るのですが、切り替えも少ないので、「字幕を読むのに追われる」なんてことがないのです。私はミュージカルのプロデューサーもやっていたことがあるのですが、あちらは曲のテンポも早く、文字数はオペラの3~5倍ということもありました。
――ちゃんと字幕が出るし、しかも切り替えはゆっくりなんですね。なんだか私でも楽しめる気がしてきました。
初心者にもオペラ好きの方にもおすすめ“演奏会形式”って?
東急文化村のオペラ・プロデューサー 児玉晶子さん
――今回、児玉さんがプロデュースされた『パーヴォ・ヤルヴィ&N響 ベートーヴェン生誕250周年記念 オペラ≪フィデリオ≫』は“演奏会形式”なんですよね。これは普通のオペラと、どう違うのですか?
オペラというと、華やかな衣装や大掛かりな舞台をイメージされる方が多いかもしれません。そしてオーケストラは舞台上にはいないですよね。演奏会形式は、オーケストラのコンサートをイメージしてもらうとわかりやすいと思います。ステージのメインは、歌手とオーケストラ。オペラならではの“生”の音の迫力を、集中して堪能できるスタイルなんです。
――音楽に集中して楽しめるんですね。それはオペラデビューしたい人にとってもおすすめですか?
そうですね。オペラの大きな魅力である音楽を純粋に楽しめるのは、初心者の方にもおすすめできるポイントです。「オペラは物語のほとんどが音楽で進む」と先ほど言ったのですが、台詞がまったくないという作品だけではないんです。
『フィデリオ』も台詞のあるオペラなのですが、演奏会形式では、最低限までカットされます。そのぶん上演時間が短くなるので、長い舞台観賞に慣れていない方も入りやすいのではないでしょうか。
※今回の上演時間は2時間30分の予定です。
――今回は休憩1回の全2幕ですもんね。確かに、上演時間の長さはハードルのひとつになる気がしますので、まずはこのようなオペラで体験はよいですね。
最近のオペラでは、舞台装置や演出がとってもモダンである場合、わかりやすく美しいものばかりではないんです。それが好きだったり嫌いだったりということがあるのですが、そういったことに囚われずに音楽を味わえるところも魅力ですね。ぜひ、とにかく音の洪水に身を任せてみてください。
このあとはオペラ『フィデリオ』について、児玉さんにお話を伺おうと思います。でもその前に、作品が書かれた時代について少しだけご紹介。知っていると、作品をより楽しめますよ。
『フィデリオ』の時代背景
1789年 | フランス革命勃発(フランス) |
1800年 | 伊能忠敬が、蝦夷地の測量を行う(日本) |
1802年 | 「享和」へと改元(日本) |
1804年 | 「文化」へと改元(日本) ナポレオンが皇帝となる(フランス) |
1805年 | 交響曲 第3番「英雄」公開初演(オーストリア) オペラ『フィデリオ』初演(オーストリア) |
1806年 | 神聖ローマ帝国の終焉 |
『フィデリオ』が初演を迎えたのは1805年
日本では江戸時代(文化2年)、徳川家斉が第11代征夷大将軍だった時代。杉田玄白や伊能忠敬、間宮林蔵などが活躍していました。フランスではナポレオン・ボナパルトが皇帝となり、ヨーロッパ諸国とナポレオン戦争を繰り広げていました。これは音楽家たちにとっても無関係とはいえず、『フィデリオ』の初演もウィーンにナポレオン軍が迫ったため、内定されていた初演日が変更になったといわれています。
解放と自由への賛美
それまでオペラといえば、恋愛や嫉妬、裏切りなど、等身大の人間の姿を描き、美しい歌声と技巧を堪能するものでした。ところがフランス革命の混沌とした時代を背景に「救出劇」と呼ばれるものが流行し始めます。
『フィデリオ』は救出劇の代表作のひとつ。解放と自由への賛美はこの時代のオペラの定番でもありましたが、ベートーヴェンは彼が何よりも大切にした「愛・正義・平和、そして自由」、そして“権力闘争に勝利する気高い夫婦愛”を描き、唯一無二の作品へと昇華したのです。
ベートーヴェンの手掛けた唯一のオペラ『フィデリオ』
――今交響曲 第5番「運命」やバガテル「エリーゼのために」、交響曲第9番(第九)など、音楽にあまり関心のない人でも知っている作品も多いベートーヴェンですが、手掛けたオペラ作品は『フィデリオ』だけなんですよね。作曲家にとっての“オペラ”って、どういう存在なんでしょう?
オペラは作曲家にとって、一番大きなプロジェクトと言えます。ピアノ・ソロ、ピアノ伴奏で歌う、弦楽四重奏、オーケストラなどさまざまな音楽表現があるなかで、オーケストラに加えて合唱も入り、歌手のソリストがいて。さらに舞台となると、ダンサー、バレエも入る、まさに総合芸術。すべての要素を創っていくので、本当に究極の仕事。だから作曲家にとっては「いつかはオペラを書こう」と思うのかもしれません。
――それを観られるオペラは、本当に贅沢な機会なんですね。
『フィデリオ』のストーリー 貴族フロレスタンは、この地域を治める総督であり刑務所長も務めるドン・ピツァロの政敵であるため、2年以上も投獄されていた。 フロレスタンの妻レオノーレは、夫を救うため男装しフィデリオと名乗って、刑務所看守長ロッコの部下として潜入する。レオノーレを本当の美青年と思いこんだロッコの娘マルツェリーネは恋心を抱き、マルツェリーネに思いを寄せ続けてきた刑務所門番ジャキーノは、それを見て心中穏やかではない。 レオノーレは潜入した牢屋で囚人を一時日光浴させるよう進言したりと、仕事をしながらも、ついに秘密の地下牢に繋がれた夫に辿りつく。しかし同じ頃、大臣フェルナンドの査察が入ると知ったドン・ピツァロは、非合法な政敵の収監が明るみに出る前にフロレスタンを葬ってしおうと画策していた。 短刀を構えてついに現れたドン・ピツァロの前に、男装したフィデリオとして、妻レオノーレは身を投げ出す。まさに危機一髪、あわやというところでラッパが高らかに鳴り響く…。 |
――この作品の見どころを教えてください。
まずは主要人物たちによるアリアですね。スター歌手が1人で朗々と歌い上げるアリアは、オペラにおける見せ場のひとつ。今回はレオノーレ役、フロレスタン役、それぞれにアリアがあります。そして、コンサート等でも単独で演奏される名曲で、音楽の授業でも耳にしているかもしれない「レオノーレ序曲第3番」。今回は休憩のあと、2幕の前に入ります。また、囚人たち男女80人による合唱。こちらもすごく迫力があると思いますよ。
――それはぜひ聴いてみたいですね。ちなみに、児玉さんの個人的にお気に入りのシーンをお聞きしてもいいですか?
やっぱり最後に大臣がやってきて解放してくれるシーンは、“愛が勝つ”といった感じで、ベートーヴェンらしさを感じます。第九や運命のように、ベートーヴェンの作品には、“苦難を乗り越えて、最後は解放される”という表現がよく知られていますが、そういったスッキリ感をもたらしてくれるオペラです。チラシも表紙は牢屋のなかをイメージ。そして、開けるとパッと明るい日の光を感じられるように作っているんですよ。
今を生きる女性たちに観てほしいオペラ
――オペラというと主役は男性で、女性は華やかさを添えるというイメージも強いと思うのですが、『フィデリオ』は女性が主役ですね。
しかも華やかなドレスを着ているのではなくて、男装をしている。これは、ベートーヴェンがとても新しい感覚を持っていたのだと思います。男女差が今よりも大きい時代に、女性が男装をして、捕らえられた夫を助けに行くというのはすごいこと。今の女性にも通じる勇敢さを持った女性が主役、というところがすごくおもしろくて、時代の古さを感じさせないオペラです。主役のレオノーレは、一般的なオペラにはいないタイプだけれど、私たちには共感できるところの多い女性だと思います。
オペラデビューしてみませんか?
――オペラはチケットが安くはないので、興味があまりなさそうな人は誘いづらいんですよね。
オペラは1人で楽しむのも良いですよ。開演してしまえば、みんなステージを集中して観ていますからね。また、オーチャードホールは休憩時間も1人で楽しみやすい環境なんです。カフェやギャラリーもありますよ。
――1人でも楽しめるのは、大人の趣味としても嬉しいポイントですね。行ってみたくなってきました。
世界的レベルのスター歌手の歌声を、こんなに揃って聴けるのは貴重な機会なんです。しかもN響の素晴らしい音も合わさって、オーチャードホールという空間で聴ける。また、観客との一体感もライヴならではの魅力。それだけの価値はあると感じてもらえると思うので、ぜひ少しだけ背伸びをしてでもご体験いただきたいです。
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